静かな夜
静かな夜だった。
静かどころか、何の音もしない。車の音も電車の音も人々の声もない。ただ自分のめくるページの音、書き記すペンの音がするだけ。
昨夜は雨だったから、ただただ雨の音がするだけだった。きっとこの街の人は驚くだろう。
あの家に住み、老いていく祖母を醜いと思ってしまう自分に辟易する。どうしたらいいんだろう。映画のようにひとは老いれない。
見るなという親。だから自分から目を背けてるつもりはない?嘘だろ。
昔から好きじゃなかったじゃないか、祖母のことが。
なくなれば親が楽になると、ふとよぎるたび、なんてことを思ってしまうんだろうと思う。逃げて逃げて逃げて、逃げ続けている。
また逃げ帰ったごったがえした街は、静寂とは程遠い。あの家の静かな静かな夜なんてなかったかのように、人と車と目に見えない波が私を攫おうとしている。
あの家の静かな夜が恋しい。ただ、この言葉には祖母は含まれていない。それはそれはきれいな、きれいな夜だろうな。